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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)293号 判決

福井県武生市北府一丁目2番38号

原告

株式会社ホクコン

代表者代表取締役

林安雄

訴訟代理人弁護士

雨宮定直

辻居幸一

宮垣聡

訴訟代理人弁理士

小泉良邦

樋口盛之助

東京都千代田区九段南四丁目6番9号

被告

株式会社北研

代表者代表取締役

細井竹治

訴訟代理人弁護士

吉原省三

松本操

三輪拓也

小松勉

訴訟代理人弁理士

中村幹男

主文

特許庁が、昭和61年審判第18365号事件について、平成3年10月3日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「勾配自在形プレキャストコンクリート側溝」とする登録第1617986号実用新案の実用新案権者である。

上記実用新案(以下「本件考案」という。)は、昭和50年4月15日にされた特許出願(特願昭50-45758号、以下「本件原出願」という。)を原出願とする分割出願として、昭和51年9月3日に特許出願(特願昭51-105002号、以下「本件分割出願」という。)され、昭和55年10月15日に実用新案登録出願に出願変更(実願昭55-145735号)され、昭和56年11月30日に出願公告(実公昭56-51113号、その公報を、以下「本件公告公報」という。)され、出願公告後に実用新案登録請求の範囲の記載を含む明細書の記載が補正され、昭和60年11月29日に設定の登録がされたものである

原告は、昭和61年9月2日、本件考案につき無効審判の請求をしたが、特許庁は、これを同年審判第18365号事件として審理したうえ、平成3年10月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月11日、原告に送達された。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

(1)  出願公告時のもの

「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部をコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝。」

(2)  出願公告後の補正によるもの

「対向する左右の側壁部材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とし、該下部の全面開放部を水路勾配に合せたコンクリート打設面とすることを特徴とした勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝」

3  確定審決の存在

訴外福井県コンクリート二次製品工業組合(以下「訴外組合」という。)は、昭和61年6月20日、本件考案につき無効審判の請求をした。

特許庁は、これを同年審判第12641号事件として審理したうえ、昭和63年9月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

訴外組合は、同審決の取消しを求めて東京高等裁判所に提訴したが、同裁判所は、これを同年(行ケ)第254号事件として審理したうえ、平成2年4月24日、請求棄却の判決をし、同判決は同年5月10日に確定した。

上記審判事件(以下「本件先行審判事件」という。)の審決及び上記訴訟事件(以下「本件先行訴訟事件」という。)の判決のいずれにおいても、以下のことが判断事項中に示されている。

〈1〉  本件分割出願は、本件原出願に包含されていた「左右側壁の両端にのみ水平耐力梁を設けた側溝」の発明を分割したものといえるから、適法である。したがって、本件考案の出願日は、原出願日である昭和50年4月15日まで遡及する。

〈2〉  本件考案につき、実開昭48-46458号公報、実開昭48-56852号公報、及び実公昭16-2484号公報に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものということはできない。

4  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり(ただし、6頁9~10行の「本件出願の現実に出願した昭和55年10月15日」は「本件分割出願がされた昭和51年9月3日」の誤記である。)、本件出願公告後の補正は、実用新案登録請求の範囲を拡張しており、実用新案法13条において準用する特許法64条1項(いずれの条文も、平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定に違反していると認められるから、本件考案の要旨は、前記2(1)の本件出願公告時の実用新案登録請求の範囲のとおりと認められるとしたうえ、本件考案は、審判請求人の主張した理由及び提出した証拠方法のうち、実開昭48-46458号公報、実開昭48-56852号公報、「CONCRETE PRODUCTS」1968年2月号、実願昭48-65313号(実開昭50-15136号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルムの写し、昭和16年実用新案出願公告第2484号公報、特開昭48-53527号公報に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものということはできないと判断し、また、本件考案の出願日は本件原出願日である昭和50年4月15日まで遡及すると判断したうえで、審判請求人の主張した理由及び提出した証拠方法のうちその余のものは、同日以前の事実を証明するものではないから考慮する必要はないとして、本件考案の登録を無効とすることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、手続の経緯、本件考案の実用新案登録請求の範囲、請求人の主張、審決の挙げる各文書の記載事項は認める。また、本件考案の要旨が出願公告時の実用新案登録請求の範囲の欄記載のとおりのものであることはあえて争わず、これを前提として論を進める。

なお、審決が、本件考案の要旨を、組み立てられた水路、組立て工程に入る前の側溝ブロック、あるいは、これら両者を包含した上位概念のいずれに見ているか明確でないが、原告は、本訴において、これを組立て工程に入る前の側溝用ブロックと見ることにあえて異を唱えない。原告は、本件考案の要旨は工事現場で組み立てられた側溝(水路)であると考えるが、後述のように、この点のいかんは本訴の結論に影響しないので、本訴において、この点を被告主張のとおりとすることに異議を述べないこととする。

審決は、本件分割出願は適法であるとの誤った判断に基づき、本件考案の出願日は本件原出願日である昭和50年4月15日まで遡及すると誤って判断し(取消事由1)、本件考案は、審判請求人(原告)の提出した実願昭48-65313号(実開昭50-15136号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルムの写し(以下「引用例A」という。)に基づき、あるいは、引用例A及び昭和16年実用新案出願公告第2484号公報(以下「引用例B」という。)に基づき、あるいは、実開昭48-56852号公報及びこれに係る出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルムの写し(以下これらを併せて「引用例C」という。)に基づき、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるにもかかわらず、誤ってこれを否定し(取消事由2)、その結果、本件考案を無効とすることはできないとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本件考案の出願日)

(1)  審決は、本件原出願の明細書に「本発明は上記のように左右側壁(1)(1)の両端の上部と下部に夫々水平耐力梁(2)(2)、(3)(3)を設けているが、一般には下部の水平耐力梁(3)(3)は上部の水平耐力梁(2)(2)よりも断面積を小さく構成するもので、また高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」との記載があることを根拠に、原出願には「左右側壁の両端の上部と下部に水平耐力梁を設けた側溝」と「左右側壁の両端上部にのみ水平耐力梁を設けた側溝」との2発明が包含されていると認定し、これを前提に、本件分割出願は上記2発明のうち後者を分割したものであって適法であり、したがって本件考案の出願日は原出願の出願日である昭和50年4月15日まで遡及すると判断したが、誤りである。

(2)  本件原出願の明細書に審決の挙げる記載があることは認めるが、そこに記載された「下部耐力梁(3)(3)を設けない」側溝(審決のいう「左右側壁の両端上部にのみ水平耐力梁を設けた側溝」)は、一定の限定の下での例外的な実施態様として開示されているだけで、何らの制限のないものとして開示されているわけではない。

このことは、以下に述べるところに照らして明らかである。

〈1〉 審決の挙げる記載自体、「・・・また高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」というものであって、「下部耐力梁(3)(3)を設けない」のは「高さの小さい小断面側溝の如きにあって」のことに限ることを明示している。

〈2〉 本件原出願の明細書に「施工にあたつてはかかる状態で現場に搬入し、各本発明道路側溝(イ)を、天端部(8)が道路天端(9)に合致するように配列し、次いで下部水平耐力梁(3)(3)間に形成された開口部(6)に現場コンクリートを打設し、この現場打コンクリート(10)によつて側溝底を構成させるものである。」(甲第4号証2頁右下欄2~8行)と記載されている点から見て、原出願において「一般には下部の水平耐力梁(3)(3)は上部の水平耐力梁(2)(2)よりも断面積を小さく構成する」理由は、下部の水平耐力梁は、現場コンクリート打設によりこのコンクリートと一体となって側溝底を構成するので、コンクリートが硬化した後は、側溝の強度負担に実質的に関係しないと考えられたからであると認められる。

したがって、本件原出願における下部耐力梁の果たすべき役割は、側溝の強度負担ではなく、運搬、現場における位置移動の過程や施工後の打設コンクリートの未硬化段階等における損傷の防止にあったと理解される。

このことは、本件分割出願をした残りの原出願に基づく公告公報である実公昭57-2551号公報に「この水平耐力梁3、3は側溝の現場施工後には第8図に示すように底部打設コンクリート10に埋め込まれてしまうため、施工後の側溝の強度を直接に左右するものではないが、施工前の段階、例えば運搬時等における側壁部1、1’の損傷を防止する目的で設けるものであり、また、このような目的のためその断面積は上部水平耐力梁部2、2よりも小さくて済むものである。」(甲第6号証3欄40行~4欄3行)と記載されていることからも明らかである。

そうとすれば、下部水平耐力梁を省略することができるのは、上記損傷の生ずる恐れの少ない例外的場合に限られることが明らかであり、その例外的場合に当たるものとして限定的に示されたのが「高さの小さい小断面側溝」であったと解すべきである。

〈3〉 上記「高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」との記載は、下部耐力梁を設けなくてもよいほどに高さの小さい小断面側溝であっても、なお、下部水平耐力梁を設けておいて現場で取り除くこともできるという内容であるから、そこでは、運搬中の損傷の危険は相当に強調されているといわなければならない。

そうである以上、下部水平耐力梁を省略するのは、例外中の例外であることが、これにより示唆されているものと見なければならない。

〈4〉 本件原出願当時、高さが小さく断面積が小さいもの以外のものについても下部水平耐力梁を省略できることが当業者にとって自明であったという事実は存在しない。

(3)  ところが、本件分割出願においては、そこに記載された「左右側壁間下部を開放底部となした」コンクリート側溝の高さ、断面積につき、何らの限定もなされていない。すなわち、下部水平耐力梁を設けないのは、原出願においては、「高さの小さい小断面側溝の如きにあって」の場合に限るとされていたのに、分割出願においては、このような限定は一切取り除かれ、高さ及び/又は断面積の大の場合も包含するものとなっており、このことは、本件考案の出願公告後の補正書に「従来のU形道路側溝ロでは、その側溝深さを深くするほど側壁に作用する曲げモーメントが大きく、側壁付根および底壁の厚さを厚くせねばならず不経済な側溝となる。又、巾を広く、深さの浅いものとすることにより、その厚さを薄く経済的なものとすることが出来るが、車道の有効巾を狭める結果となる。・・・それに対し、本考案における側溝イにおいては、前記の如く、深さを深くしても、必要強度を得るための側溝厚が薄くて良く、経済的な側溝を得ることが出来るため、道路巾が大きく有効に使用出来、既設道路に施工する場合も、その掘削巾が小さくてすみ交通阻害を少なくすることが出来る。」(甲第3号証3枚目5~12行)と記載され、「高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」との制限は完全に抹殺され、逆に高さの大きい側溝でもよいことが明示されるに至ったことに明白に示されている。

(4)  本件分割出願が不適法であることは、上に述べたところに照らして明らかである。

したがって、本件考案の出願日は、原出願の日に遡及せず、分割出願の日である昭和51年9月3日と認められなければならない。

一方、本件考案の実施品は、上記分割出願の日より前である昭和51年3月から、公然知られ公然実施されていた。このことは、被告の関連会社である株式会社ホクエツの福井営業所長作成の報告書に以下のとおり記載されていることにより明らかである。

「一方北越ヒューム管株式会社、北越コンクリート株式会社及び当社では、昭和五一年三月から右実用新案の勾配自在形プレキャストコンクリート側溝を「勾配可変側溝」の名称で発売を開始するとともに、県内土木事務所、各市町村を中心とする公共機関に対し会社の総力をあげて宣伝、受注活動を重ねてきました。」(甲第9号証3頁10~13行)

そうとすれば、本件考案の実用新案登録は、実用新案法3条1項1号及び2号に違反してなされたものとして、無効といわなければならない。

2  取消事由2(本件考案の容易推考性)

(1)  審決の認定判断

審決は、その根拠として「甲第4~6号証、及び甲第11~13号証には、本件考案の構成要件である「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成される」点について記載されておらず、本件考案は、この点によって明細書に記載されている前記した効果を奏するものであるから、」(審決書9頁6~15行)と述べたうえ、これのみに基づいて、本件考案を引用例A~Cを含む公知文献に基づいてきわめて容易に考案することができたものとすることはできない旨判断した(審決書9頁6~18行)が、誤りである。

すなわち、本件考案の進歩性を肯定するその結論に到達する論理過程として審決が示した上記部分は意味不明であり、審決にはその結論に到達する論理過程が示されていないという違法があるのは問わないとしても、本件考案は、本件実用新案権の出願日を原出願日である昭和50年4月15日であるとした場合にも、それ以前に公知となっていた刊行物である引用例A~Cからきわめて容易に想到しうるものであり、審決は、本件考案の進歩性を肯定したその結論において誤っている。

(2)  本件考案の構成

本件考案の構成は、出願公告時の実用新案登録請求の範囲に記載された「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部をコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝。」であり、これを分説すれば次のとおりとなる(以下、次の構成をれぞれ「本件考案構成〈1〉」「本件考案構成〈2〉」などと呼ぶことがある。)。

〈1〉 左右の側壁部を有すること

〈2〉 上記左右の側壁部の両端上部間に水平耐力梁を一体形成すること

〈3〉 左右側壁下部を全面開放部としたうえ、現場でこの全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合わせて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端が断面箱形に構成されること

〈4〉 以上を特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝であること

(3)  本件考案の作用効果

本件出願公告時の明細書を示す本件公告公報(甲第2号証、以下、本件公告公報でもって、本件出願公告時の明細書の内容を示す。)に記載された本件考案の作用効果を整理すると、以下のとおりである(以下、次の効果をそれぞれ「本件考案作用効果〈1〉」、「本件考案作用効果〈2〉」などと呼ぶことがある。)。

〈1〉a 「全面開放底部6に打設した現場打コンクリート10によって無段階的に勾配をとることができ、・・・ことにその無段階的勾配形成可能な長さを同一深さのもので大きくとることができる」(甲第2号証4欄3~7行)

b 「同一深さの側溝では必要勾配を得ることが困難な場合には、10~20cm程度の深さの差のある数種の本考案側溝イ、イをつくり、それらのうち深さが一段深いものか又は一段浅いものを適当に配列して、各全面開放底部6に前述したような現場コンクリート打設を行えばよく、かくすれば底部の現場打コンクリート10が必要以上に厚くなったりあるいは薄くなったりしない一定厚の無段階的勾配を簡単に得ることができる。」(同4欄8~16行)

〈2〉 「上部に水平耐力梁部2、2が形成されているが、それら水平耐力梁部2、2間には蓋板7を装着するための開口部4があるので、この開口部4を利用することにより前述したコンクリート打設及び仕上げ作業を容易に行うことができる。」(同4欄25~29行)

〈3〉 「本考案の側溝イにおいては、側壁部1’に加わる側圧Pの分布状態は第10図のようになり、このときに左右側壁部1、1’間の上部に一体に水平耐力梁部2、2が形成され、また全面開放底部6に現場打ちコンクリート10が設けられて箱状断面となっているので、前記した側圧Pに対し壁体上部と下部において、前記水平耐力梁部2、2及び現場打コンクリート版が的確に反力P’を受持つことになり、そのため壁体に作用する最大モーメントは、P×a×b÷Hと従来の側溝に比し非常に小さくなる。」(同4欄末行~5欄10行)

〈4〉 「いま仮にH=0.5m、a=0.3m、b=2mとした場合、従来の側溝壁に生ずるモーメントはa×P=0.3Pとなるのに対し、本考案による側溝壁に生ずるモーメントは、P×a×b÷H=P×0.3×0.2÷0.5=0.12pとなり、両者を比較すると側圧に対する強度は本考案の場合従来の2.5倍となる。そのため本考案道路側溝によれば、従来の道路側溝(原文の「導路側溝」は誤記と認める。)に比し、1/2.5に対応するだけの側溝厚で足りることになる。」(同5欄11~19行)

「従来の側溝と同一条件で施工する場合、同一強度を得るためには側壁の厚さを20~40%も減少させることができ・・・側溝を形成するためのコンクリート量が少なくて済み、従来に較べ経済的なプレキヤスト側溝を得さしめることができ」る(同6欄3~11行)。

〈5〉 「全面開放底部6に現場打コンクリート10が設けられて箱状断面となつているので、」その打設コンクリートが側溝に作用する側圧に対して有効に働く(同5欄4~8行)。

〈6〉 「同一強度を得るためには側壁の厚さを20~40%も減少させることができるので側溝自体の軽量化を図ることができ、このため現場での運搬・配線を従来に較べ容易に行うことができる」(同6欄4~8行)。

(4)  引用例A、同Bからの容易推考性

〈1〉 引用例Aの記載

引用例Aには、考案の名称を「コンクリート組立水路」とする考案が開示されており、その実用新案登録請求の範囲の記載は、「側板を対設し、この側板の内側上部に段部を形成し、この段部上にハリや蓋等を嵌着載置し、側板の内側底部間に鉄棒杆を架設し、この内側底部にコンクリート打込みにより底板を長さ方向に少し勾配をつけて側板と一体に形成せしめた事を特徴とするコンクリート組立水路。」であり、その考案の詳細な説明の欄には、以下のとおりの記載がある。

「従来の水路は側壁と底板が一体となつたU字状のものを勾配をつけて埋設して行くものであるから埋立土砂が多量に必要になると共に道路面、宅地面等が平らにならず不体裁な欠点があった。

本考案はかかる欠点を解決したコンクリート組立水路に係るものにして、その構成を添附図面を参照に詳述すると次の通りである。

水路を形成しようとする個所に穴を堀りこの穴の中にコンクリート製の側板(1)(1)を対向させた状態で順次長さ方向に並設していく。

この側板(1)(1)の内側上下端部寄りに段部(2)(3)を形成している。

そしてこの側板(1)(1)の内側下端部の数個所に嵌着凹部(4)を形成している。

この左右の嵌着凹部(4)(4)に鉄棒杆(5)を嵌着して側板(1)(1)の左右間に架設して側板(1)(1)の左右巾を調節する。この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。

この底板(6)の厚みは鉄棒杆(5)が埋設する程度の厚みにすると良い。

側板(1)(1)の上部の段部(2)(2)上にハリ(7)若しくは蓋(8)を載置する。

このハリ(7)、蓋(8)の厚みは側板(1)(1)の上縁部より突出しない程度の厚みのものを用意すると良い。

本考案は上述の様に構成したから次の様な特長を有するものである。

1 側板(1)と底板(6)とが別々になつており、側板(1)は工場生産し、底板(6)は現場打ちで行うものであるから水路の勾配は底板(6)によつて調節出来るから道路や宅地に勾配を取る必要がないから側板(1)(1)の上縁部は道路面や宅地面は平らになり体裁の良い水路が形成される事になる。

2 水路巾の調節は側板(1)(1)の対設によって自由に決める事が出来る。

3  この場合側板(1)(1)の底部間の数個所に鉄棒杵(5)を設けているからこの鉄棒杵(5)の長さによつて側板(1)(1)の左右巾が正確に決まると共に補強筋の作用もするために丈夫な水路が形成される。

4  亦水路の高さも底板(6)の施工によって自由に調節する事が出来る。

5  側板(1)(1)の内側上部寄りに段部(2)を設けているからここにハリ(7)や蓋(8)を嵌着載置する事により内側に倒れず一層丈夫な水路が形成されると共にハリ(7)や蓋(8)の位置が決るため一層効果的でもある。

6  本案品は側板(1)だけの運搬であるからかさばらず極めて便利である。」(甲第10号証の2、明細書1欄11行~5欄1行)

〈2〉 引用例Aの側板ブロック等と本件考案の側溝用ブロックとの構成の対比

引用例Aの実用新案登録請求の範囲の記載は上記のとおりであるから、その考案の要旨はコンクリート組立水路であって、それを構成する各部材ではないが、同引用例の記載全体が上記のとおり各部材自体に着目したものを含んでいる以上、そこには、組立水路のみでなく、水路組立工程に入る前の部品としての側板ブロック等も開示されているといわなければならない。

そこで、引用例Aに開示されている側板ブロック等と本件考案の側溝ブロックの構成を対比すると、以下のとおりである。

a  引用例Aには、対向する左右の側板(1)(1)が開示されており、この構成は、本件考案構成〈1〉と同一である。

b  同引用例には、対向する左右の側板(1)(1)間の両端上部間にハリ(7)を嵌着載置する構成が開示されており、この構成は、本件考案構成〈2〉と、工事現場において「嵌着載置」されるのと工場において「一体形成」されるのとの相違があるのを除き、同一である。

c  同引用例には、「この内側底部にコンクリート打込みにより底板を長さ方向に少し勾配をつけて側板と一体に形成せしめた」、「この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。」、「側板(1)と底板(6)とが別々になっており、側板(1)は工場生産し、底板(6)は現場打ちで行うものであるから水路の勾配は底板(6)によって調節出来るから道路や宅地に勾配を取る必要がないから側板(1)(1)の上縁部は道路面や宅地面は平らになり体裁の良い水路が形成される事になる。」と記載されており、この構成は、本件考案構成〈3〉と同一である。

d  同引用例記載の側溝ブロック等は、各々は現場で工事がなされるまでは別々のものであるのに対し、本件考案の側溝ブロックは、左右側壁部とその両端上部間の水平耐力梁は工場において一体形成されている、との相違はあるが、水路に組み立てられたものとしては、上記「一体形成」に関する相違を別にして、同一である。

以上のとおりであるから、引用例Aに記載された側板ブロック等は、本件考案の構成中の「一体形成」に関する部分を除き、他の構成をすべて備えているということができる。

〈3〉 本件考案の作用効果と「一体形成」との関係について

本件考案は、前述のとおり、本件考案作用効果〈1〉~〈6〉を有するとされている。

しかし、これらの効果は、「一体形成」でなければ生じないというものではなく、工場で、引用例A記載の左右両側板、ハリ等の部材を製造しておき、現場において、これらの部材を組み立て、下部の全面開放部に水路勾配に合わせてコンクリートを打ち込み、左右両側壁部の両端上部にハリを設けて水路を形成した場合でも、上記各効果と実質的に同じ効果を生ずる。

すなわち、本件公告公報と引用例Aのそれぞれの作用効果に関する記載を比較対照すれば、別紙のとおりとなり、両者は実質的に同一である。

両者の比較をする際に注意すべきは、本件公告公報において、「側溝上部に蓋板7を載置させた側溝もあるが、かかるタイプのものでは蓋版7が側溝ロと一体化されず、単に全面開放部に係止するだけであるため、蓋版7には側圧に対する効果を期待できなかつた。」(甲第2号証2欄25~29行)などとして、本件考案における「一体形成」の効果が強調されているけれども、従来の側溝について本件公告公報で述べるところは、蓋板を用いないもの、あるいは、蓋板を用いてもそれが単に全面開放部に係止されているだけのものにとどまり、そこには引用例Aにおける蓋板が「嵌着載置」されたものは含まれていないということである。

すなわち、本件公告公報にいう「係止」が、蓋板と側溝との間に間隔が存在し蓋板が側溝側からの側圧を受け止めることができない関係を示すものであることは、同公報第11図(甲第2号証4頁)により明らかである。

しかし、実際の技術においては、蓋板と側溝との間には、間隔は存在しないようにして、蓋板が側圧を受け止めるよう配慮がなされるのが一般であり、引用例Aにおいて、「側板の内側上部に段部を形成し、この段部上にハリや蓋等を嵌着載置し・・・」と述べているのはこのことを意味する。すなわち、「嵌着」とは、はめ込まれた状態を意味するから、同引用例では、ハリの両端部は段部の立ち上がり部分に密着した状態となっており(甲第10号証の2、第2図)、これと底板コンクリートとにより側圧に対して両端支持となり、側板が側圧によって歪むことがないのである。

以上から明らかなように、水平耐力梁と側溝とを一体成形することによって、水路としての新しい効果は何も生まれない。

そうとすれば、水路を構成する部材の一部である上部耐力梁を「一体形成」するか、別個に設けておいて現場で一体に組み立てるかは、本来、当業者が諸般の状況に応じて任意に採択しうる設計的事項であったといわなければならず、これをもって本件考案のブロックの進歩性の根拠とすることは許されない。

〈4〉 「一体形成」と引用例B

引用例Bには、名称を「側溝用半管」とする考案が開示されており、「登録請求ノ範囲」の記載は「第一圖ニ示ス如クU型ノ上端ノー部ハ之ヲ連結シテ管形ヲ構成シタル側溝用半管」であり、「實用新案ノ性質、作用及效果ノ要領」の欄には「本實用新案ハ半管形ノこんくりーと塊ニシテ道路工事ニ於ケルU型側溝ノ代用ニ供スルモノナリ本案ノ效果ハ圖面中(A)及(C)ノ箇所カ完全ニ管形ヲ構成セルヲ以テU型側溝ニ於ケル如ク土壓ノタメニ兩壁カ内側ヘ壓セラルル事ナク從ツテこんくりーとノ厚モ極度ニ節約セラレテ薄キモノニテ足リ工費甚シク低廉トナル施工(原文の「施行」は誤記と認める。)ニ當リテハ仕事ノ閑散ノ時ニ豫メ多量ニ製作シ置クヲ得ヘキヲ以テ迅速ニ施工シ得ヘク工事中ノ道路交通ノ障害トナル期間ヲ短縮スルノ利便アリ」と記載されている(甲第11号証)。

上記記載によれば、引用例Bには、水平耐力梁が側壁に一体に形成された側溝用半管が記載され、この側溝用半管には、側壁は、水平耐力梁と底壁とを支点とする両端支持梁になっているので、同一強度を得るための側壁の厚さは水平耐力梁のない従来のU字型側溝の場合に較べて薄くてよい、との作用効果がある旨が記載されているということができる。

引用例Bに記載された側溝用半管の有する上記作用効果は、本件考案の作用効果中、「一体形成」によるものと見られる本件考案作用効果〈3〉、〈4〉、〈6〉に対応する。

本件考案と同じく道路側溝を技術分野とする引用例Bに上記記載がある以上、当業者にとって、引用例Aを改善して側壁と水平耐力梁を一体形成したものとすることは、何らの考案力も要しないことであったといわなければならない。

被告は、引用例Bの側溝用半管は、側溝用半管であって、本件考案の側溝用ブロックとは使用目的も技術思想も異にする旨主張するが、失当である。

すなわち、両者は、いずれもそれを用いて築造されるのが側溝(水路)である点では同じであるから、両者の使用目的は共通であり、しかも、引用例Aとの関係でいえば、同引用例においては、側板と底板との一体化、側板と耐力梁との一体化はいずれも現場でするものとされているのに対し、工場段階でその一方を済ませておき、現場での工程を少なくするという点で、共通の技術思想に立つものである。

被告は、既に確定した本件先行無効審判事件の審決において、当業者が引用例Bを含む文献から本件考案をきわめて容易に考案することができたとはいえないとされていることを根拠に、最高裁判所判決(最高裁判所平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号1頁)を引用しつつ、本訴において同引用例を援用することは、実用新案法41条によって準用される特許法167条(いずれの条文も平成5年法律第26号による改正前のもの、以下同じ。)に違反し、許されない旨を主張する。

しかし、上記確定審決においては、引用例Aと同Bとの組合せからの容易推考性については何も判断されておらず、上記最高裁判所判決も、このような場合に後の審判事件で両引用例からの容易推考性を無効事由として主張することを禁ずる趣旨のものでないことは、その判示するところからも明らかであるから、被告の主張は、失当である。

そもそも、特許法167条に定めるいわゆる一事不再理の原則は、重複審判の場合、すなわち、本件におけるように確定審決の登録前に無効審判が請求されている場合には、適用されないと解すべきである。

この解釈の正当性は、

ア 条文の文言上は、「・・・確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」とされていて、確定審決の登録後の審判の請求のみを禁じたものとなっていること

イ そう解さないと、既に係属している無効審判あるいはその審決に対する取消訴訟における、ある引用例に基づく無効事由の主張が、異なる当事者間の確定審決の結果によって許されなくなるという、第三者の行為により訴訟物が処分されるに等しい不当な結果を生じ、憲法32条の裁判を受ける権利を侵害する違憲の疑いさえ発生すること

ウ 沿革的に同法条と密接な関係を有するオーストリア特許法の同旨の規定「・・・特許原簿への登録は、審決の確定後行うものとし、同一の事実及び証拠に基づく新たな申立ては、第三者からなされたものであっても、これを不適法とする効果を有する。」(1907年法の第146条(2)項)につき、同国憲法裁判所が、1973年に、「第三者からなされたもであっても」の部分は憲法に違反するので廃止するとの判決をしたこと、

エ 重複審判の場合に一事不再理の原則を適用しないと、一時的には確定審決の矛盾・抵触のように見える状態が生ずるが、特許無効の審決は対世効を有するので(平成5年法律第26号による改正前の特許法125条)、実際には、確定審決の効力を第三者に及ぼさなくとも、関係人の法律関係に混乱が生ずることはないこと

オ 被告が引用する大審院判決は、本件がそうである無効審判請求事件とは性質を異にする、特許権範囲確認請求事件に関するものであること、この判決のなされた大正9年と現在との間に、前述のとおり、世界的に見ても、特許権利者と第三者との利害の調整に関する考え方が大きく変化してきていることなどに照らし、本件において重視する必要はないと解されること

等によって裏付けられている。

〈5〉 「一体形成」とカルバート

アメリカ合衆国で発行されたコンクリート関係技術雑誌「CONCRETE PRODUCTS」1968年2月号の「RTP MARKETS “INSTANT BRIDGES”」の見出しの記事(甲第12号証48頁以下・訳文1頁以下)には、同記事の写真2(同49頁)及び6(同51頁)に示されているようなカルバート(箱型排水溝)セクションが、米国において、工場生産のプレハブ製品として、1950年代の終わりころから製造販売され、1968年ころには広く普及された旨が述べられている。

この記事には、さらに、当該カルバートは、脚(leg)と頂版(top)から構成されており、1個の型枠(コンクリート成形ビット)により工場において一体に成形される旨が記載されている(同49頁中欄・訳文5頁末尾から2行~6頁2行、50頁左欄・訳文7頁末尾から3行~8頁2行、49頁上段の写真説明文・訳文12頁)。

上記「脚」及び「頂版」は、それぞれ本件考案の側壁及び水平耐力梁に対応する。しかも、工場において両者が一体に成形されたカルバートは、トラックで建設現場に搬入されそこで排水溝に組み立てられるものである。かくして、上記記事には上記カルバートにより現場作業が顕著に短縮されることが開示されている。

上記記事に開示されているカルバートは、我が国の土木業界においては、一般に「門形カルバート」と呼ばれているものであり(甲第13号証、昭和62年発行「道路土工、擁壁・カルバート・架設構造物工指針」87頁)、その用途としては、河川・水路用、道路用等がある(同88頁)。

このカルバートは、使用に当たり、頂版上に土かぶりを行う場合もあるが、これを行わない場合もあり、後者は“土かぶりが0”といわれている(甲第14号証、昭和49年11月1日発行「土木工学ハンドブック下巻」1870頁)。上記雑誌記事においても、この点につき、「たいていの「ボックスカルバート」は表面を露出して設置される」旨が述べられている(甲第12号証49頁1~2行・訳文6頁16行)。

門型カルバートが土かぶりが0の場合、これと側溝用ブロックとは、断面は門型である点においても、垂直土圧及び側圧の計算方法においても、同じである。このことは、被告のVSカルバートの製品カタログ(甲第33号証の1~5)の「VSカルバートは、底版部が、現場打ちコンクリートで形成されますので、製品の構造を門型ラーメン構造(・・・)とし・・・計算方法は、「建設省制定土木構造物標準設計第1巻(側溝類暗きょ類)の手引きの一連ボックスカルバートの項を参照致しました」(甲第33号証の3)との記載からも明らかである。

上に述べたところから見て、門形カルバートにおいて側壁と頂版とを一体に形成することは、本願出願前周知の技術であったこと、門形カルバートは水路に用いられる製品であり、本件考案や引用例Aの側溝とは、用途分野において重複ないし隣接していることが明らかである。

そうとすれば、引用例Aにおいて別々の部材として製造され工事現場において組み立てるものとされている左右側板とハリとを一体形成することが、当業者にとりきわめて容易になしうることであったことは、この点からも明らかであったといわなければならない。

被告は、カルバートと側溝用ブロックとは、大きさも使用目的も異なるとして、これを本件考案の容易推考性の判断資料にすることはできない旨主張するが、失当である。

すなわち、大きさについていえば、被告のVSカルバートの製品カタログ(甲第33号証の1~5)及びVS側溝の製品カタログ(甲第35号証の1~3)の対比からも明らかなように、カルバートと側溝用ブロックとは大きさにおいて相当の範囲で重なっており、使用目的についていえば、いずれも排水の目的に使用される点において同一であり、ただ、その排水の対象が雨水等の路面排水であるものが側溝用ブロックと、生活排水等それ以外の排水であるものがカルバートと、それぞれ呼ばれているにすぎず、したがって、カルバートのうち比較的小型のものを道路脇に埋設する場合には、側溝用ブロックを埋設する場合と、技術的には全く同じものとなるのである。

〈6〉 本件考案の進歩性の欠如

以上のとおりであるから、本件考案は、当業者にとて、引用例Aの記載自体から、あるいは、引用例A及び同Bの記載から、あるいは、引用例Aの記載及び門形カルバートに関する上記周知の慣用技術から、きわめて容易に考案をすることができたものといわなければならない。

(5) 引用例Cからの容易推考性

〈1〉 引用例Cの記載

引用例Cには、名称を「底部に開口部を有する側溝用U字型ブロック」とする考案が記載され、その実用新案登録請求の範囲の記載は「断面U字型の側溝用ブロツク1の底部2に所要形状の開口部5を設けたことを特徴とする底部に開口部を有する側溝用ブロツク」(甲第15号証の1・2の各「実用新案登録請求の範囲」)であり、考案の目的の欄に「本案は底部に所要の開口部を設けて重量を軽減すると共にコストの低減を計り、且つ工事の際に上底の勾配並びに高さを調節自在とした底部に開口部を有する側溝用U字型ブロックに関するものである。」(甲第15号証の2、1欄9~13行)とそれぞれ記載されると同時に、側溝(水路)としてこのブロックを設置し、底部にセメント、モルタル等を打設して上底を適宜勾配とすることの詳細も開示されている。ここに開示されたブロック及びこれを用いて設置された側溝(水路)を図示すれば、別紙第2~第5図のとおりとなる。

同引用例に開示された側溝用ブロックは、以下の特徴を有している。

a  側壁を有すること

b  側壁と底部をもってU字溝を形成し、底部の中央部に長方形の開口部を形成し、開口部においては、開放形状としていること

c  開口部内及び底部の上に栗石等を敷いて所望の勾配を設け、敷底を形成し、次に、敷底上にセメント、モルタル等により上底を形成する(したがて、側壁と打設されたセメント、モルタル等により側溝断面は箱形となる。前記第3、第4図参照)こと

d  以上を特徴とする勾配自在形のプレキャストコンクリート側溝であること

同引用例には、上記側溝用ブロックの作用効果として、次のものが記載されている。

a  水路勾配をいずれの方向にも傾斜させることができる(甲第15号証の2、4欄12~14行)。

b  掘削に要する労力及び作業時間が節減できる(同4欄15~16行)。

c  材料の節約、重量の軽減ができる(同5欄1行)。

d  製造原価が安く、運搬が容易である(同5欄2~3行)。

〈2〉 引用例Cの側溝ブロックと本件考案の側溝ブロックとの構成の対比

U字型ブロックを上下逆さにして利用することは、土建業界における古くからの慣用技術である(甲第12号証、「CONCRETE PRODUCTS」、甲第13号証、「道路土工、擁壁・カルバート・仮設構造物工指針」87頁(b)門型カルバート等)から、引用例CのU字型ブロックを上下逆さにして側溝を作ることは、当業者にとって、きわめて容易になしうるところである。

そして、このようにして作られた側溝用ブロックは、本件考案の構成要件をすべて備え、本件考案と実質的に全く同一となり(別紙第6図参照)、その作用効果においても差異はない。

〈3〉 本件考案の進歩性の欠如

そうとすれば、本件考案は、当業者にとって、引用例Cに上記慣用技術を適用することにより、きわめて容易に考案をすることができたものといわなければならない。

〈4〉 確定審決との関係

特許法167条は重複審判請求の場合には適用されないと解すべきであることは、既に述べたとおりである。

また、重複審判請求の場合にも同法条の適用があるとしても、本訴で原告の行っている主張は、引用例Cのみを根拠にするものではなく、これと「CONCRETE PRODUCTS」(甲第12号証)、「道路土工、擁壁・カルバート・仮設構造物工指針」(甲第13号証)に開示された上記慣用手段との組合せを根拠にするものであるから、同法条の適用はないと解すべきである。

これら文献に開示された上記慣用手段は、引用例Cとの関係で、単に本件考案の出願時における技術水準を示すといった補助的な役割を果たしているのではなく、これと同等の資格で無効事由を構成するものであるから、この慣用手段は同引用例からの容易推考性の立証の資料にされているにすぎないことを前提とする被告主張は、失当である。

したがって、いずれにせよ、前記確定審決において引用例Cが引用例とされていることを根拠とする被告の主張は理由がないものといわなければならない。

(6) 本件考案の側溝用ブロックの普及について

被告は、本件考案の側溝用ブロックが顕著に普及したことをもって、その進歩性を裏付けるものとしている。

しかし、上記普及は、地方公共団体を主とする側溝工事発注者が、現場作業者の不足の顕在化から、工場における加工度の大きいものを選択する傾向が大きくなったこと、総道路投資は、昭和52年に4兆2,724億円であったものが、平成2年には10兆3,078億円にまで増大していることにも見られるように、地方公共団体による道路の新設・改良のための予算が飛躍的に増大したことなどの、技術外の要因に基づくものであり、本件考案の進歩性とは無関係である。

仮に、本件考案の側溝用ブロックの需要の多いことに何らかの技術的要因が関与しているとしても、それは、側溝底を勾配自在になしうる作用を生ずる「左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部をコンクリートを水路勾配に合せて打設する」という既に引用例Aによって公知となっていた構成、及び、周辺技術であるプレキャストコンクリート技術の急速な発展などの、本件考案の進歩性の根拠となりえない要因によるものであり、引用例Aにない本件考案の構成である「一体形成」によるものではない。

このことは、側溝底部の勾配を自在に設ける必要のない工事、すなわち、側溝底を道路肩と実質的に平行に設けても、排水の流れに支障を来さないような地形における工事には、現在においても、ほとんどの場合、本件考案の側溝用ブロックのような勾配自在型のものは用いられず、U字形側溝又は現場打ち型側溝が用いられていること、引用例Aの実施品と見られうる「組立型ロングU」が、訴外大丸コンクリート株式会社の主導の下、約33社の提携により、共通企画を以て、市場に参加していることなどによっても明らかである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。なお、審決が、本件出願公告後の補正は不適法であるとして、本件考案の要旨を本件出願公告時の実用新案登録請求の範囲に記載のとおりと認めている点については、被告は、本件補正が不適法であるとの審決の判断には承服しないが、本件補正は明瞭でない記載の釈明であって、補正の前後にかかわらず本件考案の要旨に変わりはないと考えているので、あえて争わない。

1  取消事由1について

(1)  本件原出願及び本件分割出願の各明細書に原告主張の各記載があることは認める。

しかし、原告も認めるとおり、本件原出願の明細書に「本発明は上記のように左右側壁(1)(1)の両端の上部と下部に夫々水平耐力梁(2)(2)、(3)(3)を設けているが、一般には下部の水平耐力梁(3)(3)は上部の水平耐力梁(2)(2)よりも断面積を小さく構成するもので、また高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい」との記載がある以上、そこには、要するに、下部耐力梁を設けなくても製造後搬入設置までの間に破壊するおそれのないものについては、下部耐力梁を設ける必要がない旨が述べられているのであり、したがって、本件分割出願が下部耐力梁のない側溝ブロックを高さの小さい小断面側溝のようなものに限定しないからといって、原明細書に記載されていない発明を要旨とする分割出願がなされたことにはならない。

原告は、上記「高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、」との記載は、上部耐力梁のみを設ける側溝用ブロックの範囲を限定している旨主張する。

しかし、原明細書記載の趣旨は、上記のとおり、要するに、下部耐力梁を設けなくても製造後搬入設置までの間に破壊するおそれのないものについては、下部耐力梁を設ける必要がないというに尽き、「高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、」の記載は、このようなおそれのない場合の例の一つとして、「高さの小さい小断面側溝」を挙げたにすぎないものであることは、その表現自体から明らかである。

そもそも、「高さの小さい」というのは何と比較してのことなのか、「小断面」というのはどの程度の断面をいうのか、その判断の基準は原明細書に全く示されていないから、上記記載は下部耐力梁を設けない側溝用ブロックの限定のための記載としては極めて不明確不明瞭なものであり、このような記載をもって上記限定をしたものと解することは不合理といわなければならない。

(2)  本件分割出願の適否については、既に何度か争われたが、いずれにおいても適法であると判断されている。

〈1〉 本件考案の出願の過程において、審査官から、被告に対し、本件分割出願は分割出願の要件を欠くので出願日の遡及は認められないとの通知がなされた(乙第1号証)が、これに対し、被告が、上申書(乙第2号証)を提出し、原明細書の上記部分の記載を指摘して分割の根拠を説明したところ、これが認められ、出願公告においても、登録においても、出願日は原出願日の昭和50年4月15日とされた。

〈2〉 被告(本訴)を原告、原告(本訴)を被告として、本件考案の侵害を理由に提起された東京地方裁判所昭和60年(ワ)第13677号実用新案権侵害差止請求事件において、原告(本訴)は本訴におけると同様の主張をしたが、判決は分割を適法とした。

〈3〉 被告(本訴)を原告、訴外組合を被告として提起された東京地方裁判所昭和61年(ワ)第2816号実用新案権侵害差止請求事件において、同組合は分割の不適法を主張したが、判決は分割を適法とした。

〈4〉 本件先行無効審判事件において本件分割は適法とされ、その審決取消訴訟である本件先行訴訟事件の判決も分割を適法として、同訴訟事件の確定により上記審決は確定した。

(3)  以上のとおり、本件分割出願は適法であり、このことは、本件考案についての従来の諸紛争の過程で繰り返し明らかにされてきたところである。

したがって、分割の不適法を前提に本件考案の無効をいう原告の主張は、その前提において既に誤っており、失当である。

2  同2について

(1)  原告の取消事由2の主張中、本件考案の構成に関するその(2)、本件考案の作用効果に関するその(3)は認める。また、本件明細書(本件公告公報)、引用例A~Cを含め、原告の挙げる各文献に原告主張の各記載があることは認める。

(2)  従来のプレキャストコンクリート側溝用ブロックには、次のような欠点があった。

〈1〉 平坦地では、勾配を自由にとることができないため、一般に、これを使用せず、現場打ちの方法をとっていた。そのため、工事に多大の労力と時間を要し、また工費もかさむという欠点があった(甲第2号証、本件公告公報2欄8~13行)。

〈2〉 U形をなしているので、側圧に耐えるため下部に近づくほど肉厚にする必要があり、また、上部に蓋板を載置させる方式のものにおいても、蓋板が側溝と一体化されず、全面開放部に係止されているだけなので、側圧に対する効果が期待できなかった(同2欄18~29行)。

〈3〉 工場で製造されて現場に運ばれ配列設置されるため、作業性のうえで軽量であることが望ましく、また、その方がコンクリートの使用量が少なくてすむが、そうすると強度が落ちるという欠点があった(同2欄30行~3欄3行)。

本件考案は、従来の側溝用ブロックのこのような欠点を除去し、道路勾配と関係なく側溝底部勾配を簡便かつ自在に施工することができ、しかも、側溝用ブロックとして軽量かつ経済的であるとともに、施工後は大きな強度を得ることができる側溝用ブロックを提供することをその目的とするものである(同1欄24~30行)。そして、本件考案は、その要旨を審決認定のとおりのものとして、無段階に勾配をとることのできる側溝用ブロックを提供することにより、従来技術の前記問題点〈1〉を解決し、側壁と上部耐力梁を一体に形成し底部を全面開放とすることにより、同〈2〉、〈3〉を解決したのである。

(3)  引用例A、同Bからの容易推考性について

〈1〉 原告は、本件考案の側溝ブロックと引用例Aに開示された側板ブロック等との対比において、後者は、「一体形成」の点を除き、前者の構成(本件考案構成〈1〉~〈4〉)をすべて備えているとし、これを前提に論を進めているが、以下に述べるとおり、原告主張は、引用例Aの構成に関するこの前提において既に誤っている。

引用例Aの側板ブロックは、現場で組み立てられて初めて側壁となるのであり、ブロックの段階においては、側壁をなしていない。

同引用例のハリは、現場で側板上部間に嵌着載置されて初めて側板との間に関連を有するに至るのであり、それまでは、側板との間に何らの関連も有しない独立した部材である。

同引用例においては、正確にいえば、底部を鉄棒杆で支持しているので、建設段階においても下部は全面開放状態にならない。

同引用例においては、ハリが側板上部間に嵌着載置された後も、嵌着載置の必然的結果としてハリと側板との間に隙間があるから、工事が完成した後も、本件考案におけるように断面箱形とならない。

同引用例の側板等は、それぞれ、側板、ハリ、鉄棒杆といったばらばらの部品であって、側溝の形をなしていないから、これを、側溝用プレキャストコンクリートブロックとすることはできない。

要するに、引用例Aに示されている側板等は、ばらばらの部材の集合にすぎず、側溝用ブロックとはいえないものであるのに対し、本件考案の側溝用ブロックは、底部以外の部分は既に一体のものとして完成されており、プレハブ式すなわちプレキャストの側溝用ブロックであるという、大きな相違があることを、原告は無視しているのである。

〈2〉 引用例Aの側板等と本件考案の側溝用ブロックとの間には、構成上の上記相違に基づき、側溝用材料として見た場合も、それを用いて完成された水路として見た場合も、大きな相違がある。

側溝用材料として見た場合、同引用例においては、ばらばらの部材を現場で組み立てなければならないのに対し、本件考案においては、底部以外の部分は既に完成されているから、両者は、側溝用材料としての作業性が全く異なる。

完成された水路として見た場合、同引用例においては、側板とハリは別々に形成されて側板にハリが載置されているにすぎないため、重力荷重が一方の側壁に偏って加わると、ハリと側板の継ぎ部が緩んで変形しやすい。そして、この変形は、底部と側壁との接続部にも及ぶことになり、水路のひび割れ、崩壊を起こすことになるのに対し、本件考案においては、左右側壁部と水平耐力梁部が一体に形成されているため緩むことがなく、しかもあらかじめ十分な強度を計算して製造しておくことができるため、このような問題を生ずることがない。

〈3〉a 原告は、引用例Bの記載を根拠に、引用例Aの側板等から本件考案のブロックに想到することはきわめて容易であった旨主張する。

しかし、引用例Bに記載されているのは、側溝用半管であり、管の上面に開口部を設けただけのものであって、本件考案の側溝用ブロックを用いて施工した場合の底部コンクリートに相当する底部は側壁とあらかじめ一体となっていて、同じ側溝用ブロックといっても、本件考案のものとは、使用目的が異なるものである。

そして、側溝用コンクリートブロックにおいては、側壁部と底部を一体として形成しておくというのが従来の技術思想であったのであり、引用例Bもその一つである。引用例Aが底部を現場において築造するという技術思想に基づくものである以上、同引用例を基に、これとは異なる上記技術思想に基づく引用例Bを考慮しても、本件考案のような、底部を開放しつつしかも上部を耐力梁と一体に形成することを特徴とする構成は、当業者がきわめて容易に推考しうるものではない。

b 引用例Bは、本件先行無効審判事件においても、他の文献とともに引用例とされていること、同事件の審決において、本件考案はこれらの引用例から当業者がきわめて容易に考案することができたとはいえないとされていること(同事件審決書10頁7~10行)、その審決取消訴訟である本件先行訴訟事件の判決においても同様に判断されていること(同事件判決書32丁裏1行~33丁表5行)、上記審決は上記判決の確定により確定していることは、いずれも原告も認めるところであるから、本件訴訟において引用例Bを引用例として無効を主張することは、実用新案法41条で準用する特許法167条に違反し、許されず、仮に同引用例を本訴において援用することが許されるとしても、それは、引用例Aからの本件考案の容易推考性を判断する資料にとどまるものというべきである(最高裁判所平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号1頁参照)。

したがって、引用例Aと同Bを組み合わせて初めて本件考案が容易推考であるとする原告主張は、この点からも許されないものといわなければならない。

原告は、重複審判請求の場合、すなわち、確定審決の登録前に別の無効審判請求が既にされている場合には、後者につき特許法167条の適用はないと解釈すべきであるとし、この解釈を前提に、本訴で引用例Bを引用例とすることは許される旨主張する。

しかし、特許法167条が、重複審判請求の場合に矛盾した審決がなされることを予定しているとは考えられず、この場合であっても同条の適用があることは、判例(大審院大正9年3月19日判決・民録26輯371頁)、学説(「特許判例百選」48事件、吉藤「特許法概説」(第9版)541頁)によって一般的に認められているところであり、原告の上記主張は、同条についての特異な解釈を前提にするものであって、失当である。

〈4〉 原告は、門形カルバートにおいて側壁と頂版とを一体に形成することは、本願出願前周知の慣用技術であったとし、また、門形カルバートは水路に用いられる製品であり、本件考案の側溝用ブロックや引用例Aの側板等とは、用途分野において重複ないし隣接しているとして、これらを根拠に、引用例Aの側板等から本件考案のブロックに想到することはきわめて容易であった旨主張する。

しかし、側溝用ブロックと門形カルバートとは、本来、使用目的と使用態様を明確に異にするものであり、原告主張のように、用途分野において重複ないし隣接しているといいうる関係にはない。

すなわち、「カルバート」とは、もともと、「暗渠」あるいは「地下水路」の意味であって、道路下に埋設して暗渠として利用するものであることは、建設省制定「土木構造物標準設計第1巻 解説書(側こう類・暗きょ類)」(乙第8号証)において、ボックスカルバートは側溝と区別して解説されており、カルバートは道路カルバート、水路(暗渠)カルバートとして使用するものとされていること、「道路土工-擁壁・カルバート・仮設構造物工指針 昭和52年1月版」(乙第10号証の1~6)及び「道路土工-擁壁・カルバート・仮設構造物工指針 昭和62年5月版」(甲第13号証)のいずれにおいても、そこに挙げられている、道路土工に伴う標準的なカルバートの種類の中に側溝用のものは入っていないことによって明らかであり、門形カルバートに限っていえば、門形カルバートは、土かぶりを10m以下、幅を3~8mとするのが一般的な適用範囲であること(甲第13号証88~89頁、乙第10号証の5、78~79頁)、原告の挙げる「CONCRETE PRODUCTS」(甲第12号証)に示されている最小のものでも8×4.7フィートすなわち幅2.4m高さ1.41mであること等に示されるその大きさに照らしても明らかである。

このように、カルバートは、側溝用ブロックとは全く別のものであり、水路として用いているときは、もっぱら暗渠として使用され、その土かぶり厚は、「車道下では舗装厚以上又は50cm程度以上が得られるように当初から計画しておくことが望ましい」(乙第8号証、24頁)とされている。

「土木工学ハンドブック 下巻」(甲第14号証)に土かぶりが0の場合の記載があることは事実であるが、この記載は、土かぶりが0の場合の土圧力を説明したものであって、このような使用のされ方が一般的であるとしているわけではない。

側溝用ブロックと門形カルバートとは、本来、使用目的と使用態様を明確に異にするものであり、原告主張のように、用途分野において重複ないし隣接しているといいうる関係にはないことは上記のとおりであるから、門形カルバートに関する原告主張の技術常識を前提にしても、引用例Aの側板等から本件考案のブロックに想到することがきわめて容易であったとすることはできない。

(4)  引用例Cからの容易推考性について

〈1〉 引用例Cは、実開昭48-56852号公報(甲第15号証の1)とその明細書(同2)である。

そして、本件先行審判事件の審決及びその取消しを求める本件先行訴訟事件の判決のいずれにおいても、示された判断事項中に、本件考案につき、実開昭48-46458号公報、実開昭48-56852号公報、及び実公昭16-2484号公報に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものということはできない、とするものが含まれていることは、原告も認めるところである。

そうとすると、引用例Cは、上記確定審決において引用例とされた資料と同一ということができ、これを理由に本件考案の無効を主張することは、実用新案法41条で準用する特許法167条に反し、許されないものといわなければならない。

原告の引用例Cに関する主張が、同引用例と周知事項との組合せによる容易推考性にあるとしても、容易推考性を導く根拠とされているのは同引用例であり、周知事項は、同引用例からの容易推考性の立証のための資料にされているにすぎないのであるから、結論に変わりはない。

重複審判請求の場合、すなわち、確定審決の登録前に別の無効審判請求が既にされている場合には、後者につき特許法167条の適用はないと解釈すべきであるとする原告主張が失当であることは、引用例Bとの関連で、既に述べたとおりである。

〈2〉 上記の点を離れても、本件考案は、引用例Cからきわめて容易に推考できるようなものではない。

すなわち、同引用例は、底部に開口部を設けたU字型側溝用ブロックであり、そこには、本件考案の構成要件である、左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放部とした構成を示唆するものは何もない。

原告は、同引用例のU字型ブロックを上下逆さにした側溝用ブロックを作ることは、当業者にとって、きわめて容易になしうるところであったと主張するが、そのような構成を考えつき、それに適した構造とするところに考案の進歩性があるのであるから、原告主張は失当である。

3  本件考案の施工実績

本件考案の側溝用ブロックは、その優れた効果のために、実施許諾を希望する業者は多く、実施権者は全国で140社以上に達し、その施工実績は、次のとおり年を追って伸びている。これ以外にも、実施許諾を受けずに製造販売を行って、侵害事件を起こした業者もある。

年 数量 対前年伸び率

昭和52年 28,000m

昭和53年 54,000m 92.9%

昭和54年 155,000m 187.0%

昭和55年 323,000m 108.4%

昭和56年 370,000m 14.5%

昭和57年 412,000m 11.4%

昭和58年 456,000m 10.7%

昭和59年 596,000m 30.7%

昭和60年 730,000m 22.4%

昭和61年 803,000m 10.0%

昭和62年 890,000m 10.8%

昭和63年 995,000m 11.8%

平成元年 1,095,000m 10.1%

平成2年 1,196,000m 9.2%

この点に関し、原告は、本件考案の側溝ブロックが普及し商業的成功をおさめたのは、技術的要因以外の社会的、経済的要因による旨の主張をしている。

しかし、昭和55年以降平成2年までの道路投資の伸び率が、昭和62年が異常に突出しているのを別にすると、一貫して1桁台であるのに対し(甲第31号証の2、25頁)、同期間における本件考案の側溝ブロックの伸び率が一貫して2桁あるいはそれに近い数値を保っていること、本件考案の代替品が未だにないことからすれば、上記商業的成功の要因は、社会的、経済的なものを無視することはできないにしても、技術的なものが大きかったといわなければならない。

そして、このことは、当業者が本件考案の効果を認めたことにほかならず、本件考案の進歩性を証明する有力な証拠の一つであるといわなければならない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。)

第6  当裁判所の判断

1  本件考案の構成

本件考案の構成は、出願公告時の実用新案登録請求の範囲に記載された「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝。」であり、これを分説すれば次のとおりとなることについては、当事者間に争いがない。

〈1〉  左右の側壁部を有すること

〈2〉  上記左右の側壁部の両端上部間に水平耐力梁を一体形成すること

〈3〉  左右側壁下部を全面開放部としたうえ、現場でこの全面底部にコンクリートを水路勾配に合わせて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端が断面箱形に構成されること

〈4〉  以上を特徴とする勾配自在形プレキャストコンクリート側溝であること

2  本件考案の作用効果

本件公告公報(甲第2号証)に記載された本件考案の作用効果が以下のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

〈1〉a「全面開放底部6に打設した現場打コンクリート10によって無段階的に勾配をとることができ、・・・ことにその無段階的勾配形成可能な長さを同一深さのもので大きくとることができる」(同号証4欄3~7行)

b 「同一深さの側溝では必要勾配を得ることが困難な場合には、10~20cm程度の深さの差のある数本の本件考案側溝イ、イをつくり、それらのうち深さが一段深いものか又は一段浅いものを適当に配列して、各全面開放底部6に前述したような現場コンクリート打設を行えばよく、かくすれば底部の現場打コンクリート10が必要以上に厚くなつたりあるいは薄くなつたりしない一定厚の無段階的勾配を簡単に得ることができる。」(同4欄8~16行)

〈2〉「上部に水平耐力梁部2、2が形成されているが、それら水平耐力梁部2、2間には蓋版7を装着するための開口部4があるので、この開口部4を利用することにより前述したコンクリート打設及び仕上げ作業を容易に行うことができる。」(同4欄25~29行)

〈3〉「本考案の側溝イにおいては、側壁部1’に加わる側圧Pの分布状態は第10図のようになり、このときに左右側壁部1、1’間の上部に一体に水平耐力梁部2、2が形成され、また全面開放底部6に現場打ちコンクリート10が設けられて箱状断面となつているので、前記した側圧Pに対し壁体上部と下部において、前記水平耐力梁部2、2及び現場打コンクリート板(原文の「版」は誤記と認める。)が的確に反力P’を受持つことになり、そのため壁体に作用する最大モーメントは、P×a×b÷Hと従来の側溝に比し非常に小さくなる。」(同4欄末行~5欄10行)

〈4〉  「いま仮にH=0.5m、a=0.3m、b=2mとした場合、従来の側溝壁に生ずるモーメントはa×P=0.3Pとなるのに対し、本考案による側溝壁に生ずるモーメントは、P×a×b÷H=P×0.3×0.2÷0.5=0.12Pとなり、両者を比較すると側圧に対する強度は本考案の場合従来の2.5倍となる。そのため本考案道路側溝によれば、従来の道路側溝に比し、1/2.5に対応するだけの側溝厚で足りることになる。」(同5欄11~19行)

「従来の側溝と同一条件で施工する場合、同一強度を得るためには側壁の厚さを20~40%も減少させることができ・・・側溝を形成するためのコンクリート量が少なくて済み、従来に較べ経済的なプレキャスト側溝を得さしめることができ」る(同6欄3~11行)。

〈5〉  「全面開放底部6に現場打コンクリート10が設けられて箱状断面となつているので、」その打設コンクリートが側溝に作用する側圧に対して有効に働く(同5欄4~8行)。

〈6〉  「同一強度を得るためには側壁の厚さを20~40%も減少させることができるので側溝自体の重量の軽量化を図ることができ、このため現場での運搬・配線を従来に較べ容易に行うことができる」(同6欄4~8行)。

3  引用例Aの記載

引用例A(甲第10号証の2)は、本件原出願日である昭和50年4月15日より前の同年2月18日に出願公開された実開昭50-15136号公報に係る出願の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写しであり、本件分割出願の適否にかかわらず、本件出願前に我が国において頒布された刊行物であると認められるところ、同引用例には、考案の名称を「コンクリート組立水路」とする考案が開示されており、その実用新案登録請求の範囲の記載は、「側板を対設し、この側板の内側上部に段部を形成し、この段部上にハリや蓋等を嵌着載置し、側板の内側底部間に鉄棒杆を架設し、この内側底部にコンクリート打込みにより底板を長さ方向に少し勾配をつけて側板と一体に形成せしめた事を特徴とするコンクリート組立水路。」であり、その考案の詳細な説明の欄に以下の記載があることは、当事者間に争いがない。

「従来の水路は側壁と底板が一体となったU字状のものを勾配をつけて埋設して行くものであるから埋立土砂が多量に必要になると共に道路面、宅地面等が平にならず不体裁な欠点があった。

本考案はかかる欠点を解決したコンクリート組立水路に係るものにして、その構成を添附図面を参照に詳述すると次の通りである。

水路を形成しようとする個所に穴を掘り(原文の「堀」は誤記と認める。)この穴の中にコンクリート製の側板(1)(1)を対向させた状態で順次長さ方向に併設して行く。この側板(1)(1)の内側上下端部寄りに段部(2)(3)を形成している。

そしてこの側板(1)(1)の内側下端部の数個所に嵌着凹部(4)を形成している。

この左右の嵌着凹部に鉄棒杆(5)を嵌着して側板(1)(1)の左右間に架設して側板(1)(1)の左右巾を調節する。この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ長ら乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。

この底板(6)の厚みは鉄棒杆(5)が埋設する程度の厚みにすると良い。

側板(1)(1)の上部の段部(2)(2)上にハリ(7)若しくは蓋(8)を載置する。

このハリ(7)、蓋(8)の厚みは側板(1)(1)の上縁部より突出しない程度の厚みのものを用意すると良い。

本考案は上述の様に構成したから次の様な特徴(原文の「特長」は誤記と認める。)を有するものである。

1 側板(1)と底板(6)とが別々になっており、側板(1)は工場生産し、底板(6)は現場打ちで行うものであるから水路の勾配は底板(6)によって調節出来るから道路や宅地に勾配を取る必要がないから側板(1)(1)の上縁部は道路面や宅地面は平らになり体裁の良い水路が形成される事になる。

2 水路巾の調節は側板(1)(1)の対設によって自由に決める事が出来る。

3 この場合側板(1)(1)の底部間の数個所に鉄棒杆(5)を設けているからこの鉄棒杆(5)の長さによつて側板(1)(1)の左右巾が正確に決まると共に補強筋の作用もするために丈夫な水路が形成される。

4  亦水路の高さも底板(6)の施行によって自由に調節する事が出来る。

5  側板(1)(1)の内側上部寄りに段部(2)を設けているからここにハリ(7)や蓋(8)を嵌着載置する事により内側に倒れず一層丈夫な水路が形成されると共にハリ(7)や蓋(8)の位置が決るため一層効果的でもある。

6  本案品は側板(1)だけの運搬であるからかさばらず極めて便利である。」(甲第10号証の2、1欄11行~5欄1行)

4 引用例Aの側溝ブロック等と本件考案の側溝ブロックとの構成の対比

引用例Aの実用新案登録請求の範囲の記載は上掲のとおりであるから、その考案の要旨が、そこに記載された各部材を使用して完成された水路であり、水路を構成する各部材でないことは明らかである。

しかし、同引用例の記載を全体として見た場合、上記のとおり、水路を構成する各部材自体に着目したものを含み、完成された水路が優れたものであることの原因が使用される各部材にあることをも述べるものである以上、そこには、完成された水路のみでなく、水路組立工程に入る前の部品としての側板ブロック等の各部材も、まとまった一体のものとして、開示されているといわなければならない。

このようにまとまった一体のものとして同引用例に開示されている側板ブロック等の各部材と、本件考案の側溝ブロックの各構成を対比すると、以下のとおりであるということができる。

(1)  同引用例には、対向する左右の側板(1)(1)が開示されており、この構成は、本件考案構成〈1〉と同一である。

(2)  同引用例には、対向する左右の側板(1)(1)間の両端上部間にハリ(7)を嵌着載置する構成が開示されており、この構成は、本件考案構成〈2〉と、工事現場において「嵌着載置」されるのと工場において「一体形成」されるのとの相違があるのを除き、同一である。

(3)  同引用例には、「この内側底部にコンクリート打込みにより底板を長さ方向に少し勾配をつけて側板と一体に形成せしめた」、「この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。」、「側板(1)と底板(6)とが別々になっており、側板(1)は工場生産し、底板(6)は現場打ちで行うものであるから水路の勾配は底板(6)によって調節出来るから道路や宅地に勾配を取る必要がないから側板(1)(1)の上縁部は道路面や宅地面は平らになり体裁の良い水路が形成される事になる。」、「亦水路の高さも底板(6)の施工によって自由に調節することが出来る。」と記載されており、この構成は、本件考案構成〈3〉と同一である。

(4)  同引用例記載の側溝ブロック等の各部材は、現場で工事がなされるまでは各々が別々のものであるのに対し、本件考案の側溝ブロックは、左右側壁部とその両端上部間の水平耐力梁は工場において一体形成されている、との相違はあるが、水路に組み立てられたものとしては、上記「一体形成」に関する相違を別にして、同一である。

(5)  本件考案の側溝用ブロックは、同引用例記載の鉄棒杆に相当するものを含んでいない。

しかし、同引用例の上掲「この場合側板(1)(1)の底部間の数個所に鉄棒杆(5)を設けているからこの鉄棒杆(5)の長さによって側板(1)(1)の左右巾が正確に決まると共に補強筋の作用もするために丈夫な水路が形成される」との記載から見て、この鉄棒杆は、工事現場における側板の左右巾の正確な決定に役立てることを主たる目的とし、打設した底部コンクリートの補強筋の作用を奏させることを副次的な目的とするものであると認められ、この主たる目的との関連では、同引用例のものが本件考案の構成中の「一体形成」に関する部分に相当するものを有していないことの結果であるということができ、副次的な目的との関連では、打設した底部コンクリートの強度との関係で、適宜省略できるものであることは、当業者にとって自明というべきであるから、その有無という相違は、結局、「一体形成」と「嵌着載置」の相違に吸収されるものといわなければならない。

以上のとおりであるから、引用例Aに記載された側板ブロック等の各部材は、それら全体を、完成されるべき水路の部材として見た場合、本件構成中の「一体形成」に関する部分を除き、他の構成をすべて備えているということができる。

被告は、同引用例に示されている側板等の各部材は、ばらばらの部材の集合にすぎず、側溝用ブロックとはいえないものであるのに対し、本件考案の側溝用ブロックは、底部以外の部分は既に一体のものとして完成されており、プレハブ式すなわちプレキャストの側溝用ブロックであるという大きな相違があるとし、この相違を無視して両者を比較することは許されないと主張する。

しかし、同引用例に示されている側板等の各部材は、それぞれ互いに無関係に存在するものとして記載されているわけではなく、それぞれが最終的には一体となって同じ水路を形成するための部材として示されていることは、同引用例の上掲記載から明らかであり、その限度では、本件考案の側溝用ブロックの左右側壁と水平耐力梁とが一体となって、完成された水路から見ればその部材となるものとして示されているのと少しも異なるところはない。完成された側溝(水路)を基準に見た場合、両者の相違は、一方は、工事現場に行く前に、左右側壁部と水平耐力梁のみは一体に形成されてまとめられているのに対し、他方は、現場での工事が始まるまでは、これらもまとめられていないという、工事現場に行く前のまとめられ方の程度にあるにすぎない。

他方、本件考案は、側溝(水路)ではなく側溝用ブロックであるといってみても、考案としての価値が工事現場における側溝(水路)構築のあり方を離れてありえないものであることは、その実用新案登録請求の範囲に「・・・現場にて前記全面開放部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝」として、工事現場における側溝(水路)構築方法を取り入れた表現がなされていること、被告が本件考案のものとして主張するところの、平坦地においても排水勾配を無段階的にかつ簡便に形成することができる効果も、軽量かつ経済的で施工後は優れた強度を得ることができる効果も、現場で本件考案の側溝用ブロックに底部コンクリートを打設することを離れてはありえない効果であることによっても明らかであり、このように、その価値を見るためには、それを用いて完成された水路の形でも認識されなければならない点において、同引用例の場合と変わるところはない。

そうとすれば、本件考案につき、いわゆる侵害訴訟においてその技術的範囲を問題にする場合とは異なり、考案の容易推考性の観点から判断するに当たり、側溝用ブロックである本件考案も側溝(水路)である同引用例の考案も、同じ技術分野に属するものとして、両考案を対比することに何の問題もなく、その際、本件考案の側溝用ブロックを現場で側溝(水路)とされた状態で同引用例の側溝(水路)と比較しても、逆に、同引用例の側溝(水路)をその部材が現場で組み立てられる前にまとまったものとして存在する状態で本件考案の側溝用ブロックと比較しても、それを不当とする理由はなく、むしろいずれも必要なことといわなければならない。

そして、このようにして、同じ技術分野に属するものとして、両考案を対比した場合、上記いずれの状態において対比しても、「一体形成」の点を除き、本件考案の側溝用ブロックと同引用例に開示された各部材の間に相違はないことは上述したところから明らかであるから、被告の上記主張は失当である。

5  引用例Bと一体形成

(1)  引用例Bの記載と一体形成の容易推考性

引用例B(甲第11号証)は、昭和16年実用新案出願公告第2484号公報であり、本件分割出願の適否にかかわらず、本件出願前に我が国において頒布された刊行物であると認められるところ、同引用例には、名称を「側溝用半管」とする考案が開示されており、その「登録請求ノ範圍」の記載は、「第一圖ニ示ス如クU型ノ上端ノ一部ハ之ヲ連結シテ管形ヲ構成シタル側溝用半管」であり、その「實用新案ノ性質、作用及效果ノ要領」の欄には、「本實用新案ハ半管形ノこんくりーと塊ニシテ道路工事ニ於ケルU型側溝ノ代用ニ供スルモノナリ本案ノ效果ハ圖面中(A)及(C)ノ箇所カ完全ニ管形ヲ構成セルヲ以テU型側溝ニ於ケル如ク土壓ノタメニ兩壁力内側へ壓セラルル事ナク從ツテこんくりーとノ厚モ極度ニ節約セラレテ薄キモノニテ足リ工費甚シク低廉トナル施行ニ當リテハ仕事ノ閑散ノ時ニ豫メ多量ニ製作シ置クヲ得ヘキヲ以テ迅速ニ施工シ得ヘク工事中ノ道路交通ノ障害トナル期間ヲ短縮スルノ利便アリ」と記載されていることは、当事者間に争いがない。

上掲記載及び同引用例の第1~第3図(同号証図面)によれば、同引用例には、水平耐力梁が側壁の両端に一体に形成された側溝用半管が記載され、この側溝用半管においては、側壁が水平耐力梁と底壁とを支点とする両端支持梁になっているので、同一強度を得るための側壁の厚さは水平耐力梁のない従来のU字型側溝の場合に較べて薄くてよいとの作用効果があるとされていることが認められる。

本件考案の作用効果とされているもののうち、「一体形成」の構成が関与するのが、本件考案作用効果〈3〉、〈4〉、〈6〉に限られることは明らかであり、引用例Bの側溝用半管の有する上記作用効果は、これらのすべてに対応するものであることは明らかである。

そうとすれば、本件考案と同じく側溝用ブロックを技術分野とする引用例Bに上記記載がある以上、当業者にとって、これと技術分野を同じくする引用例Aの側溝用部材を改善して側壁と水平耐力梁を一体に形成したものとすることは、きわめて容易になしえたことであるといわなければならない。

被告は、同引用例の側溝用半管は、側溝用半管であって、本件考案や引用例Aの側溝用部材とは使用目的を異にするから、これを本件における容易推考性の根拠にすることはできない旨主張する。

しかし、本件公告公報(甲第2号証)中の「従来のこの種プレキヤストコンクリート側溝口は、一般に第9図や第11図のように両側壁15、15’に底壁16が一体形成された断面〈省略〉形状の3面舗装タイプとなつていて、同一幅員の製品では溝深さが一定となつていたため、これを道路側溝として使用すると、水路底勾配が側溝天端17および道路縦断勾配と同じにならざるを得ず、その結果・・・という欠点があつた。」(同号証1欄33行~2欄13行)、「従来の側溝ではプレキヤストコンクリート側溝にしても現場打ちコンクリート側溝にしても、いずれも前述のように〈省略〉形3面形状舗装の形状をなして上部が開いているため、・・・側壁15、15’を下部に近づくほど充分に厚肉に構成しなければならなかつた。」(同2欄16~24行)、「しかし、従来の側溝では使用コンクリートが少なく軽量のものであればある程、施工後の側溝の強度が不足するという問題があり、前記水路勾配の問題とともにこの軽量化と強度の面でも決して満足すべきものではなかつた。」(同2欄35行~3欄3行)、「本考案は上記したような従来の道路側溝の不利、欠点を除去し、平坦地においても排水勾配を無段階的に自在かつ簡便に形成することができ、しかもこのような側溝において軽量且つ経済的で、施工後は優れた強度を得ることができるプレキヤストコンクリート道路側溝を開発したものであり、」(同3欄4~10行)との各記載、引用例A(甲第10号証の2)中の「従来の水路は側壁と底板が一体となつたU字状のものを勾配をつけて埋設していくものであるから埋立土砂が多量に必要になると共に道路面、宅地面等が平らにならず不体裁な欠点があった。本考案はかかる欠点を解決したコンクリート組立水路に係るものにして、・・・」(同号証の2、1欄11行~2欄1行)との記載、引用例B(甲第11号証)中の「本實用新案ハ半管形ノこんくりーと塊ニシテ道路工事ニ於ケルU型側溝ノ代用ニ供スルモノナリ本案ノ効果ハ圖面中(A)及(C)ノ箇所カ完全ニ管形ヲ構成セルヲ以テU型側溝ニ於ケル如ク土壓ノタメニ兩壁力内側へ壓セラルル事ナク・・・」の記載に示されているように、これらは、いずれも、U字形側溝用ブロックを従来技術として、これを改良した側溝(水路)築造用の部材であるから、引用例Bの側溝用半管と他の二者の間に、各引用例を本件考案の容易推考性の判断資料とする妨げとなるよな使用目的の相違があるとすることはできない。

引用例Bの側溝用半管は、このように、従来のU字形側溝用ブロックの改良として他の二者と使用目的を共通にしながら、本件考案の側溝用ブロックにあって引用例Aの側溝用各部材にない技術思想、すなわち、引用例Aにおいては、側板と底板との一体化、側板と耐力梁との一体化はいずれも工事現場でするものとされているのに対し、これとは異なり、工場段階でその一部又は全部を済ませておき、工事現場での工程を少なくするという技術思想に立ち、これを提供するものであるという点において、引用例Aの側溝用部材と本件考案の側溝用ブロックとの橋渡しとなる要素を有しているということができるのである。

また、被告は、側溝用ブロックの左右側壁部材間の下部を全面開放形状にしておく技術思想に基づく引用例Aを基に、左右側壁部材と底部を一体として成形しておくという従来の技術思想に基づく同Bを考慮しても、本件考案の側溝用ブロックのような、底部を開放しつつ上部を耐力梁と一体に形成することを特徴とする構成は、当業者がきわめて容易に推考することができるものではない旨主張する。

しかし、引用例Aと同Bの間の、工事現場に行くまでは全面開放形状にしておいて現場で打設するか、工場において両側壁部材と一体として成形しておくかという側溝用ブロックの左右両側壁部材間の底部についての技術思想の相違が、その上部についての、左右側壁部材両端上部間に耐力梁を設けてこれと一体に形成する引用例B記載の技術を、同Aの側溝用部材に適用することに想到することの困難性に与える影響は、全くないとはいえないとしても、きわめて些細なものであり、これをもって、当業者がきわめて容易に推考することができるものではないとする根拠にはならないというべきである。

引用例Bにおいて、「一体形成」することにより実現されるものとされている前示効果、すなわち、側壁が水平耐力梁と底壁とを支点とする両端支持梁になっているので、同一強度を得るための側壁の厚さは水平耐力梁のない従来のU字型側溝の場合に較べて薄くてよいとの効果は、引用例Aにおけるように底部(底壁)を工事現場で打設する場合にも、同Bにおけるようにこれを現場に行く前にあらかじめ左右側壁と一体に成形しておく場合にも、同じように望まれるものであって、その点において両者に差異はなく、また、引用例Bの「施工(原文の「施行」は誤記と認める。)ニ當リテハ仕事ノ閑散ノ時ニ豫メ多量ニ製作シ置クヲ得ヘキヲ以テ迅速ニ施工シ得ヘク工事中ノ道路交通ノ障害トナル期間ヲ短縮スルノ利便アリ」との記載にも示されている築造工事開始前の工程を多くすることによる利点も、両者に共通のものであって、両者間に差異があるのは、引用例Bにおいては、底部が工場において既に左右側壁と一体に形成されているため、上部において水平耐力梁を一体に形成しても、工事現場に設置されるまでの間のその強度を心配する必要がほとんどないのに対し、同Aにおいては、工事現場で打設されるまでは底部は全面開放形状となっているため、上部を一体に成形したとき、底部が打設されその強度が得られるまでの間に強度に問題が発生しうるという点のみであり、この点は、それ自体その解決の求められる技術的問題となりうるが、そうだからといって、そのことが、引用例Bの上記技術を同Aに適用することに想到することを困難にするうえでさしたる影響力を有するとは考えられない。

したがって、被告の上記主張は採用できない。

なお、被告は、引用例Aの「嵌着載置」と本件考案の「一体形成」では、完成された水路となった段階でも効果に相違があることは、常識的にも明らかであるとして、その相違を強調しているが、「嵌着載置」の欠点は、それが、工事現場における工事人員、工事期間等原告主張の主として社会的要因によって発生するものであれ、完成された水路の強弱という被告主張の純粋に技術的要因によって発生するものであれ、強く認識されればされるほど、その改良が強く求められるのは理の当然であり、その改良が強く求められれば求められるほど、これに代わるものとしての「一体形成」への想到が容易になることは明らかであるから、被告主張の上記相違は、本件考案における「一体形成」の構成の容易推考性に関する上記判断の結論に、何ら影響を及ぼすものではない。

(2)  確定審決と引用例Bとの関係

引用例Bは、本件先行無効審判事件においても、他の文献とともに引用例とされていること、同事件の審判において、本件考案はこれらの引用例から当業者がきわめて容易に考案することができたとはいえないとされていること(同事件審決書10頁7~10行)、その審決取消訴訟である本件先行訴訟事件の判決においても同様に判断されていること(同事件判決書32丁裏1行~33丁表5行)、上記審決は上記判決の確定により確定していることは、いずれも当事者間に争いがない。

被告は、これを根拠に、本件訴訟において引用例Bを引用例として無効を主張することは、実用新案法41条で準用する特許法167条に違反し、許されないと主張する。

しかし、本件におけるように、ある審判の審決確定前に他の審判の請求が既にされている場合、すなわち、重複審判請求の場合にまで、上記法条を適用すべきか否か自体問題となりうると考えられるうえに、その点は問わないとしても、同法条の適用のあるのは、未確定の審判において、確定審決で引用例とされたもののみが引用例とされ、あるいは、これが主となる引用例とされている場合に限られると解するのが相当であり(最高裁判所平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号1頁参照)、本件がこのような場合に該当しないことは、上に述べてきたところから明らかであるから、被告主張は採用できない。

(3)  本件考案の側溝用ブロックの商業的成功と容易推考性との関係

ある考案の実施品が商品として成功するか否かは、種々の要因によって決まることであり、推考のきわめて容易な考案だからといって大きな商業的成功をおさめないというわけのものではないことは、当裁判所に顕著な事実であるから、仮に、被告主張のとおり、本件考案の側溝用ブロックが普及し商業的に成功をおさめたとしても、その事実が直ちに本願考案の推考の困難性に結び付くわけではない。被告主張の各数値をもって、本件考案の側溝用ブロックが普及し商業的に成功をおさめた理由がその推考の困難性以外にないとの事情とすることはできず、その他にもそのような事情を認めるに足りる証拠はない。

6  以上によれば、本件考案は、本件分割出願が適法であるとしても、その構成が引用例A及び同Bの各記載からきわめて容易に考案できたものであり、その効果も上記各引用例の記載からの予測の範囲を超えるものでないことが明らかであるから、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものとして、同法37条1項1号(平成5年法律第26号による改正前のもの)によりその登録を無効にすべきであり、これを無効としなかった審決は、違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

別紙

(作用効果の記載の比較)

本件考案の作用効果

〈1〉 現場に搬入して配列し、底部にコンクリートを打設することによって無段階的な勾配を有する排水溝を建設することができる。

(公告公報4欄3行~7行)

〈2〉 勾配を大きくとるときは、高さの異なる側溝を用いることによって底部コンクリートの厚さが一定の勾配とすることができる。

(公告公報4欄8行~16行)

〈3〉 上面に開口部があるので、底部コンクリートの打設及び仕上作業が容易である。

(公告公報4欄25行~29行)

〈4〉 従来のU字溝に較べ、自動車荷重による大きな側圧に耐え得る格段に優れた強度を提供することができる。

(公告公報4欄30行~5欄19行)

〈5〉 従来の道路側溝と比絞して、その強さにおいて優良である。(公告公報6欄11行~14行)

施工前の段階では、底部壁がなく、しかも側壁を肉薄にできるので、側溝自体の軽量化を図ることができるため運搬、勾配、配列が容易であり、コンクリートの使用量も少なくて済む。

(公告公報6欄2行~11行)

引用例Aの作用効果

〈1〉〈イ〉 この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。

良い水路が形成される事になる。

(明細書2頁13行~15行)

〈ロ〉 水路の勾配は底板(6)によって調節出来るか道路や宅地に勾配を取る必要がなく、側板(1)の上縁部は道路面や宅地面は平らになり体裁良い水路が形成される事になる。

(明細書3頁11行~15行)

〈2〉 亦水路の高さも底板(6)の施行によって自由に調節することができる。

(明細書4頁8行~9行)

〈3〉〈イ〉 この夫々の側板(1)(1)間の底部に一方に少し勾配をつけ乍らコンクリート打ち込みにより底板(6)を側板(1)(1)と一体に形成する。

(〈1〉〈ロ〉、2頁13行~15行)

註、従って、底部コンクリートの打設時には、ハリ(7)は組合わされているが、(8)が設けられる部分は開口している。(原告説明)

〈4〉〈イ〉 側板(1)(1)の内側上部寄りに段部(2)を設けているからハリ(7)や(8)を嵌着設置することにより内側に倒れず、一層丈夫な水路が形成されると共に、ハリ(7)や(8)の位置が決まるため一層効果的である。

(明細書4頁10行~14行)

〈5〉 本案品は側板(1)だけの運搬であるから、かさはらず極めて便利である。

(明細書4頁15行~5頁1行)

註、ハリ(7)およひ(8)も、工場で生産し、現場に運搬するのに適する。(原告説明)

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

昭和61年審判第18365号

審決

福井県武生町北府一丁目2番38号

請求人 株式会社 ホクコン

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 雨宮定直

東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル6階 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 竹内英人

東京都港区新橋2丁目5番6号 大村ビル 樋口・小泉特許事務所

代理人弁理士 小泉良邦

東京都港区新橋2丁目5番6号 大村ビル 樋口・小泉特許事務所

代理人弁理士 樋口盛之助

東京都千代田区九段南4-6-9

被請求人 株式会社 北研

山形県山形市香澄町1丁目8番1号 前田ビル

代理人弁理士 中村幹男

上記当事者間の登録第1617986号実用新案「勾配自在形プレキャストコンクリート側溝」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1. 手続の経緯

本件登録第1617986号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、昭和50年4月15日に出願された特願昭50-45758号(以下、「原出願」という。)を、昭和51年9月3日に特許法第44条第1項の規定により分割して特願昭51-105002号(以下、「分割出願」という。)とし、さらに分割出願を昭和55年10月15日に実用新案法第8条第1項の規定により実願昭55-145735号(以下、「本件出願」という。)に出願変更したものであって、出願公告後に実用新案登録請求の範囲の補正がなされ、昭和60年11月29日に設定の登録がなされたものである。

なお、本件考案に関し、別途無効審判の請求(昭和61年審判第12641号)がなされ、その審決(昭和63年9月26日付)に対し、東京高等裁判所に出訴(訴訟事件番号 昭和63年(行ケ)第254号)され、「請求棄却」の判決(平成2年4月24日言渡)がなされた。前記審決は確定(平成2年5月10日)しており、この審決の審判の請求不成立の理由の内、本件無効審判請求に関係するものは下記の3点である。

(1)、前記分割出願は、原出願に包含されていた「左右側壁の両端にのみ水平耐力梁を設けた側溝」の発明を分割したものといえるから、適法な分割である。したがって、本件考案の出願日は、原出願日である昭和50年4月15日まで遡及する。

(2)、出願公告後の補正は、実用新案登録請求の範囲を拡張しており、実用新案法第13条において準用する特許法第64条第1項の規定に違反していると認められる。

したがって、実用新案法第9条第1項において準用する特許法第42条の規定によれば、出願公告後の補正が特許法第64条第1項の規定に違反しているものと、設定の登録があった後に認められたときは、その補正がされなかった出願について登録がされたものとみなされるから、本件考案の要旨は、出願公告時のものである。

(3)、実開昭48-46458号公報、実開昭48-56852号公報、及び実公昭16-2484号公報に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということができない。

2. 本件考案の実用新案登録請求の範囲

(1)、出願公告時の実用新案登録請求の範囲

「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されることを特徴とする勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝。」

(2)、出願公告後の補正による実用新案登録請求の範囲

「対向する左右の側壁部材と、この対向する左右両側壁部材の両端上部間に水平耐力梁を設けて一体に成形し、該左右両側壁部材間の下部を全面開放形状とし、該下部の全面開放部を水路勾配に合せたコンクリート打設面とすることを特徴とした勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝。」

3. 本件考案の要旨

本件考案の出願公告時(昭和56年11月30日)の実用新案登録請求の範囲は、2(1)のとおりであったが、出願公告後の補正(昭和59年4月20日付け及び昭和60年4月22日付け各手続補正)による実用新案登録請求の範囲は、2(2)のとおりとなった。

してみると、前記出願公告後の補正による実用新案登録請求の範囲は、前記出願公告時の実用新案登録請求の範囲の「底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成されること」という構成要件を削除しているから、前記出願公告後の補正は、実用新案登録請求の範囲を拡張しており、実用新案法第13条において準用する特許法第64条第1項の規定に違反していると認められる。

したがって、実用新案法第9条第1項において準用する特許法第42条の規定によれば、出願公告後の補正が特許法第64条第1項の規定に違反しているものと、設定の登録があった後に認められたときは、その補正がされなかった出願について登録がされたものとみなされるから、本件考案の要旨は、2(1)のとおりのものである。

4. 請求人の主張

(1)、分割出願は原出願の適法な分割ではないから、本件考案の出願日は、原出願の出願日である昭和50年4月15日まで遡及させることはできず、本件出願の現実に出願した昭和55年10月15日をもって、その出願日とすべきものである。

(2)、本件考案は、その出願前に頒布された甲第4号証ないし第13号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

5. 本件考案の出願日(本件考案の出願日に関する請求人の主張4(1)について)

原出願の明細書には、「本発明は上記のように左右側壁(1)(1)の両端の上部と下部に夫々水平耐力梁(2)(2)、(3)(3)を設けているが、一般には下部の水平耐力梁(3)(3)は上部の水平耐力梁(2)(2)よりも断面積を小さく構成するもので、また高さの小さい小断面側溝の如きにあっては、下部耐力梁(3)(3)を設けないか、または設けておいて現場で取除くようにしてもよい。」(第5頁第6行ないし第14行)の記載があるから、原出題には、「左右側壁の両端の上部と下部に水平耐力梁を設けた側溝」と「左右側壁の両端上部にのみ水平耐力梁を設けた側溝」との二発明が包含されており、分割出願は、原出願に包含されていた「左右側壁の両端上部にのみ水平耐力梁を設けた側溝」の発明を分割したものといえるから、適法な分割である。

したがって、本件考案の出願日は、原出願の出願日である昭和50年4月15日まで遡及する。

6. 無効事由の有無(請求人の主張4(2)について)

請求人の提出した甲第4号証(実開昭48-46458号公報)には「両側辺および上辺にフランジを形成した相対する側壁および中央部に大きい開口を形成した底版を一体としてなるU字溝用プロツク」が、同じく甲第5号証(実開昭48-56852号公報)には「断面U字型の側溝用プロックの底部に所要形状の開口部を設け、開口部及び底部に栗石等による敷底を形成し、該敷底の高さを調節自在として敷底上に形成した上底に傾斜をつけるようにした側溝用U字型プロック」が、同じく甲第6号証(申請人が1968年2月にアメリカ合衆国で頒布されたと主張する雑誌「CONCRETE PRODUCTS 2月号」と称するものの写し)には逆U字形のプロックが、同じく甲11号証の2(実願昭48-65313号(実開昭50-15136号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルムの写し)には、「側板を対設し、この側板の内側上部に段部を形成し、この段部上にハリや蓋等を嵌着載置し、側板の内側底部間に鉄棒杆を架設し、この内側底部にコンクリート打込みにより底板を長さ方向に少し勾配をつけて側板と一体に形成するコンクリート組立水路」が、同じく甲第12号証(昭和16年実用新案出願公告第2484号公報)には「U型側溝の両端上部間に水平耐力梁を一体に形成したもの」が、さらに、同じく甲第13号証(特開昭48-53527号公報)には、「両側壁間の下部に底部梁を一体に設けると共に、底部梁の中央部には開口部を形成した断面U字型の側溝用プロック」がそれぞれ記載されている。

しかしながら、甲第4~6号証、及び甲第11~13号証には、本件考案の構成要件である「左右側壁部の両端上部間に水平耐力梁部を一体形成し、左右側壁部間下部を全面開放底部となし、現場にて前記全面開放底部にコンクリートを水路勾配に合せて打設することにより、底部打設コンクリートを含めた両端部が断面箱形に構成される」点について記載されておらず、本件考案は、この点によって明細書に記載されている前記した効果を奏するものであるから、甲第4号証ないし第6号証及び甲第11ないし第13号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということができないものである。

なお、請求人は、本件考案が適法に分割されたものではなく、その出願日は分割出願がなされた日である昭和51年9月3日とすべきであるという主張を前提として甲第3号証(昭和60年10月31日付「実用新案権侵害差止仮処分申請」)を提出しているが、前記のように本件考案の出願日は昭和50年4月15日まで遡及するので、甲第3号証の記載内容について言及する必要がない。

更に、同じく甲第7号証(請求人が昭和50年8月頃に作成された「カタログ」と主張するもの)、甲第8号証(請求人が昭和51年5~6月頃に作成された「カタログ」と主張するもの)、甲第9号証(請求人が「昭和61年8月28日、石川県土木部技術管理課検査専門員盛本昌平氏が石川県コンクリート製品協会に対し、下梁のない勾配可変側溝に下梁を取付けるよう、指導乃至要望を行った際に手渡した図面(原本が不鮮明なため、書き直したもの)」と主張するもの)、及び甲第10号証(昭和62年10月8日付中日新聞、第22頁)は、それぞれ本件考案の出願日以前の事実を証明するものではないので、これらの証拠の記載内容についても言及する必要がない。

7. むすび

以上のとおりであるから、請求人が主張している理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることができない.

よって、結論のとおり審決する。

平成3年10月3日

審判長 特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

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